1. はじめに
本レポートでは、神戸市に本社を置く上場企業のリストと、神戸市内で事業承継を課題としている企業の現状について調査結果をまとめています。神戸市は兵庫県の中心都市として多くの企業が集積しており、上場企業から中小企業まで多様な企業が存在しています。一方で、特に中小企業においては事業承継が喫緊の経営課題となっており、その実態と支援体制についても調査しました。
2. 神戸市に本社がある上場企業
2.1 主要上場企業リスト
神戸市に本社を置く主要な上場企業は以下の通りです:
株式会社アシックス
- 所在地: 〒650-0046 兵庫県神戸市中央区港島中町7-1-1
- 業種: スポーツ用品製造
- 市場区分: 東証プライム
川崎重工業株式会社
- 所在地: 〒650-0044 兵庫県神戸市中央区東川崎町1-1-3
- 業種: 輸送用機器
- 市場区分: 東証プライム
株式会社神戸製鋼所
- 所在地: 〒651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通2-2-4
- 業種: 鉄鋼
- 市場区分: 東証プライム
シスメックス株式会社
- 所在地: 〒651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-5-1
- 業種: 電気機器(体外検査に必要な機器・試薬・ソフトウェアの研究開発から製造、販売・サービス)
- 市場区分: 東証プライム
ヒラキ株式会社
- 所在地: 〒651-2405 兵庫県神戸市西区岩岡町野中556
- 業種: 小売業(靴の製造販売)
- 市場区分: 東証スタンダード
住友ゴム工業株式会社
- 所在地: 〒651-0072 兵庫県神戸市中央区脇浜町3-6-9
- 業種: ゴム製品
- 市場区分: 東証プライム
その他の上場企業
- 六甲バター株式会社 - 業種: 食品、市場区分: 東証プライム
- 株式会社上組 - 業種: 倉庫・運輸関連、市場区分: 東証プライム
- 株式会社ロック・フィールド - 業種: 食品、市場区分: 東証プライム
- 神戸天然物化学株式会社 - 業種: 化学、市場区分: 東証グロース
- monoAI technology株式会社 - 業種: 情報・通信、市場区分: 東証グロース
- カルナバイオサイエンス株式会社 - 業種: 医薬品、市場区分: 東証グロース
- 株式会社スタジオアタオ - 業種: 小売、市場区分: 東証グロース
2.2 市場区分の分布
神戸市に本社を置く上場企業の市場区分は以下のように分布しています:
- 東証プライム市場: 主に大手企業(アシックス、川崎重工業、神戸製鋼所、シスメックス、住友ゴム工業など)
- 東証スタンダード市場: 中堅企業(ヒラキなど)
- 東証グロース市場: 成長企業(神戸天然物化学、monoAI technology、カルナバイオサイエンス、スタジオアタオなど)
2.3 業種の多様性
神戸市の上場企業は業種が多様であり、製造業からサービス業まで幅広い分野に及んでいます:
- 製造業(重工業、鉄鋼、ゴム製品、電気機器など)
- 小売業(靴、ファッション関連など)
- 食品業
- 医薬・バイオ関連
- 情報・通信業
- 倉庫・運輸関連
3. 神戸市における事業承継の現状と課題
3.1 事業承継の現状
神戸市を含む兵庫県では、事業承継が喫緊の経営課題となっています。帝国データバンクの調査によると、2023年における兵庫県企業の休廃業・解散件数は1765件と前年より増加しており、代表者の平均年齢は71.2歳と高水準となっています。これは経営者が高齢になっても事業承継が進んでいない企業の現状を示しています。
3.2 主な事業承継の課題
神戸市内の中小企業が直面する事業承継の主な課題は以下の通りです:
後継者不在の問題
- 親族内に適切な後継者がいない
- 従業員への承継準備ができていない
- 第三者承継(M&A)の知識や機会が不足している
事業承継の準備不足
- 多忙な経営者が事業承継の準備を後回しにしている
- 計画的な準備が不十分
- 株式や会社資産の承継準備が進んでいない
財務的課題
- 株価評価や税金(贈与税・相続税)の問題
- 借入などの個人保証の引継ぎ問題
- 事業承継に必要な資金の確保
3.3 事業承継課題を持つ企業の特徴
神戸市内で事業承継課題を持つ企業には以下のような特徴が見られます:
業種の多様性
- 製造業(はん用機械器具・食料品製造業など)
- サービス業
- 小売業
- 建設業・土木工事業
- ホテル・宿泊業
- IT・Web関連企業
企業規模
- 主に中小企業が中心
- 売上高が数千万円〜数億円の企業が多い
譲渡理由
- 後継者不在(事業承継)が最も多い
- 事業戦略の見直し
- 事業存続に対する不安
4. 神戸市の事業承継支援制度
4.1 神戸市産業振興財団による「100年経営支援事業」
神戸市産業振興財団では、平成30年度から事業承継に悩みや課題を抱える中小企業等の経営者を支援する「100年経営支援事業」を実施しています。
主な支援内容:
専門家による訪問支援
- 無料で3回まで事業承継の専門家が企業を訪問
- KOBEあとつぎサポートチームの6名の専門家が課題の整理や解決策を提案
事業承継の種類別支援
- 親族内承継:事業承継計画の策定支援、株式・財産の分配、承継者の育成など
- 従業員承継:株式取得のための資金確保などのアドバイス
- 第三者承継:状況改善に取り組むべき課題や譲渡の可能性についてのアドバイス
マッチング支援
- 後継者不在企業と起業家等第三者とのマッチング
- 産振財団に登録している後継者候補の中から条件に合う方とのマッチング
- 当財団のマッチングで6件が事業承継を実現
4.2 その他の支援制度
兵庫県事業承継ネットワーク
- 兵庫県内における中小企業の事業承継を支援
- 商工会、商工会議所、金融機関等を構成員とするネットワーク
金融機関による支援
- 兵庫県内の全11信用金庫がM&Aによる事業承継のための連携事業を実施
- 「ハイタッチ兵庫」の協議にて秘密保持契約を結んだうえで情報をやりとり
補助金制度
- 国の「事業承継・引継ぎ補助金」
- 県の「事業継続支援事業」(令和6年4月30日締切)
5. 神戸市のM&A動向
兵庫県企業のM&A件数は2017年以降増加傾向にあり、2022年における兵庫県企業のM&A件数は合計104件と過去最高を記録しました。このうち:
- 買収側・売却側ともに兵庫県内のM&A案件:8件
- 買収側が兵庫県内・売却側が兵庫県外のM&A案件:38件
- 買収側が兵庫県外・売却側が兵庫県内のM&A案件:58件
これらの数字は、神戸市を含む兵庫県内で事業承継のためのM&Aが活発化していることを示しています。
6. 上場企業と事業承継課題の関連性
神戸市の上場企業と事業承継課題の関連性については、以下の点が考えられます:
上場企業自体の事業承継
- 上場企業は株式市場を通じた株式の分散保有により、オーナー経営者の事業承継問題は比較的少ない
- 経営者の交代は取締役会や株主総会を通じて行われるため、非上場企業と比較して承継プロセスが制度化されている
上場企業によるM&A
- 神戸市の上場企業が事業拡大や多角化のために、事業承継課題を持つ中小企業をM&Aで取得するケースがある
- 特に同業種や関連業種の中小企業を買収することで、事業承継問題の解決と自社の成長を同時に達成できる
上場企業のサプライチェーンへの影響
- 神戸市の上場企業と取引関係にある中小企業が事業承継問題を抱えている場合、上場企業のサプライチェーンにも影響を与える可能性がある
- 取引先の事業継続性確保のために、上場企業が事業承継支援に関与するケースも考えられる
7. 結論と提言
7.1 結論
神戸市には多様な業種の上場企業が存在し、地域経済の中核を担っています。一方で、中小企業を中心に事業承継が大きな課題となっており、後継者不在や準備不足などの問題が顕在化しています。神戸市産業振興財団をはじめとする支援機関が様々な支援策を提供していますが、休廃業・解散件数の増加は依然として続いています。
7.2 提言
早期の事業承継計画策定
- 経営者は5年〜10年先を見据えた事業承継計画を早期に策定すべき
- 神戸市産業振興財団の「100年経営支援事業」などの支援制度を積極的に活用
多様な事業承継手法の検討
- 親族内承継、従業員承継、M&Aなど複数の選択肢を検討
- 特に後継者不在の場合は、第三者承継(M&A)も視野に入れる
上場企業と中小企業の連携強化
- 神戸市の上場企業が中小企業のM&Aや事業承継支援に積極的に関与する仕組みづくり
- 産学官連携による事業承継支援エコシステムの構築
デジタル化・事業革新との連携
- 事業承継を単なる経営者交代ではなく、事業革新の機会と捉える
- デジタル化や新事業展開と事業承継を組み合わせた支援策の強化
参考情報
- 神戸市産業振興財団「100年経営支援事業」
- M&A総合研究所「兵庫県・神戸市のM&A・事業承継の現状」
- 帝国データバンク「兵庫県「休廃業・解散」動向調査(2023年)」
- 兵庫県事業承継ネットワーク